| やさしい人々 |
| 作 丸目恵里香 |
| ぐに。人の頭を踏んでしまった。三十にもなってそんな注意力散漫だから結婚もできないんだと余計なことを言った部長のバーコード頭が一瞬目の前を通り過ぎた。まだ二十八だっつうの。 すみません、大丈夫ですかと話しかけながら泥だらけのスニーカーをそっとどけようとする。ヒールも履けないあぜ道が幸いして怪我はないようだ。というよりどうしてこの人はこんな所に倒れているのだろう。近道に使っている私が言うのもなんだがこんな田舎のあぜ道に人が倒れているなんて誰も思わない。そりゃあ踏まれもするってもんだってこれは屁理屈か、とまたしてもぼーっとしていると、どけようとした足がガッとすごい勢いで掴まれた。 「へ、何、何」 つい出てしまった変な声は無視して、何となく必死になって足を引き抜こうとしてしまう。あかん、こけるこける。 「ちょっと、離してくださいよ」 引き抜こうとすればするほど腕は絡みついてくる。恐ろしくなった私は先ほど踏んだ頭を今度はわざと二三回蹴った。おかあさんごめんなさい。こんな子どもに育てた覚えはないかも知れないけれど、でも仕方がなかったの。 「め、めし」 頭、じゃなかった私が踏んだり蹴ったりしたその人はそう呟いて力尽きたのか改めて倒れた。あぜ道に取り残された私はとりあえず、家に一人分多くご飯を炊いてくれるよう電話を掛けた。 |