創像工房 in front of. は、演劇・映画・お笑いなど
エンターテインメントを創作する慶應義塾大学の公認サークルです。

第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
最終回
第3話
やさしい人々
作 為村篤
 私は不意に奇妙な感覚に陥った。どんな過程であっても到底辿り着くことのないような感情。それが私を強制的に包み込む。
 その瞬間の私は何の躊躇いもなく電話をとった。相手の出方を知りたかった私は、とりあえず無言で電話を耳と頬に当てる。
「あ、もーしもし。ちょっと、さっきからずっと電話かけてたんすよ。先輩、なんかいそがしかったんすか。」
 今私の足元で倒れている男は、一体何者なんだろうかという、もはや誰がこの受話器を取ってもちらつくであろう疑問が、私の脳と心臓を強く刺激した。何だ、この高ぶる感情は。何だっつーの。やめて、ほんとにやめて。
「あれ、もーしもし。先輩。どうしやした。まだやってるんっすか。」
「何を。」
 私は怒りを覚えた。今沸き起こった感情が怒りであることは分かった。この青年の口調か。それとも勢いか。なれなれしさか。おそらく今分かる彼の全ての要素が私の怒りを支配する部分に激しく訴えかけてきた。でも、この怒りの裏に潜む禍々しい闇が何なのか私には分からなかった。
 そこで私は、実行した。

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 俺の親父は毎晩毎晩しつこく俺に怒鳴る。
「他人に迷惑をかけちゃならねぇ」
 七年前、アメリカ合衆国のテキサス州にあるちょっとした田舎から引っ越してきた俺の家族は洗濯機のモーターの一部分をつなぎ合わせるネジを造る工場を総出で経営していた。ん?あぁ、もちろん経営難だ。親父も頑固者で、金属の塊をコンベアに流せば後つく先にネジを完成させてくれる機械があるにもかかわらず、毎日手作りで丹精こめて一日二五〇個作ってやがる。つまり、その機械がなかったら家は終わってんだ。
 でもそこで朗報だ。上の会社から連絡があって、違う種類のネジをもうひとつ造ることになった。そのネジを作る機械は会社が一ヵ月後に家に送りつけてくるらしい。この意味が分かるか?
 俺は最高の気分だった。ついうれしくなって親父に「今日は酒を酌み明かそうぜ」といったくらいだ。そして、忘れてはならない、俺の唯一尊敬しているあの先輩に電話をかけたんだ。