| やさしい人々 |
| 作 為村篤 |
| 私は不意に奇妙な感覚に陥った。どんな過程であっても到底辿り着くことのないような感情。それが私を強制的に包み込む。 その瞬間の私は何の躊躇いもなく電話をとった。相手の出方を知りたかった私は、とりあえず無言で電話を耳と頬に当てる。 「あ、もーしもし。ちょっと、さっきからずっと電話かけてたんすよ。先輩、なんかいそがしかったんすか。」 今私の足元で倒れている男は、一体何者なんだろうかという、もはや誰がこの受話器を取ってもちらつくであろう疑問が、私の脳と心臓を強く刺激した。何だ、この高ぶる感情は。何だっつーの。やめて、ほんとにやめて。 「あれ、もーしもし。先輩。どうしやした。まだやってるんっすか。」 「何を。」 私は怒りを覚えた。今沸き起こった感情が怒りであることは分かった。この青年の口調か。それとも勢いか。なれなれしさか。おそらく今分かる彼の全ての要素が私の怒りを支配する部分に激しく訴えかけてきた。でも、この怒りの裏に潜む禍々しい闇が何なのか私には分からなかった。 そこで私は、実行した。 ---------- 俺の親父は毎晩毎晩しつこく俺に怒鳴る。 |